不採用を言い渡した途端、火が付いたように泣きじゃくり、「絶対帰らないもん!」と駄々をこねて応接間に籠城する女性もいたな……。

(あれは、本当に参った)

 その時の苦労が思い出され、アシュレイは顔をしかめた。

(あまり待たせて騒がれても面倒だ。気は進まないが、そろそろ行くか)

 手違いとはいえ、相手はわざわざ当家まで足を運んでくれたのだ。
 なるべく穏便に済ませるためにも、事情をきちんと説明した上で、誠実に謝罪し断るのが上策だろう。

 
 廊下を進み応接間に近づくにつれて、楽しげな声が聞こえてくる。

(この声は、イアンか?)

 不思議に思っていると、部屋の前に侍女と家令が立っており、薄く開いた扉の隙間から中を窺っていた。

「そんなところで、なにをしているんだ?」

 そう声をかけると、ふたりはハッと顔をあげて、口元に指を当てる。