「であれば、紹介所の手違いか。それで、その女性は今どこに」

「門前払いするわけにもいかず、とりあえず応接間でお待ちいただいております。先生には、わたくしから事情を説明してお断りいたしましょうか?」

「いや、俺から直々に話すことにするよ」

「かしこまりました。今お茶をお出ししたばかりですので、もう少ししてからがよろしいかと」

 茶を飲む時間も与えず屋敷を追い出すのは忍びない。
 アシュレイは「そうだな、分かった」と素直に頷いた。

 家令が再び一礼して、部屋を出ていく。

 アシュレイは椅子の背もたれに身体を預け、「ふぅ」と溜息をついた。

 正直、女性と話すのは気が重い。
 
 これまで我が家にやってきた女性家庭教師はみな、なにかしら問題のある者ばかりだった。

 教師として雇ったにもかかわらず、イアンに見向きもせず、自分の機嫌を取ろうと必死になる者。
 なにを勘違いしたのか「私は未来の夫人なのよ」とのたまい、使用人に横柄な態度をとる者。