コンコン──というドアをノックする音で、アシュレイは書類から目を離した。
 
 入室を許可すると、部屋に入ってきた家令が、恭しく一礼する。

「お仕事中に申し訳ございません、旦那様」

「いや、構わない。どうした」

「今し方、イアンお坊ちゃまの家庭教師の先生が、面接にいらっしゃいました。ですが、その……」

 いつもハキハキと話す家令が、珍しく口ごもる。
 何事かと思い尋ねると、彼はやや困った顔で告げた。

「実は、いらしたのは女性の先生でして……」

「女性? 職業紹介所には、男性教師をと念を押していたはずだが……まさか……」

「いいえ、そうではないようです。紹介所から直接、面接の連絡を受けておりましたし、紹介状もきちんと確認しましたが、正規の物でございました」
 
 過去に、わざわざ偽の紹介状を作って面接にやってきた女性がいたため、今回も偽造かと疑ったが、どうやら本物で間違いないらしい。