アシュレイもビクトリアも、息子の不純な動機に苦笑しつつ、奮闘をほほ笑ましく見守っている。

 無事に子供劇団に合格し、夢の第一歩を踏み出したイアンはご機嫌。そんな兄の様子に、妹のレティもきゃっきゃとはしゃぐ。
 
「レティ、僕のことお祝いしてくれるの? 良い子だねえ。可愛いねぇ」

「にぃ、にぃっ!」

「よし! にぃにぃがお歌をうたってあげよう!」

 すっかりご満悦なイアンが、自信たっぷりに童謡を歌い始める。
 
 その歌唱力はお世辞にも高いとはいえず……。音程の外れまくる歌を聞きながら、アシュレイはちょっぴり苦笑した。
 
 隣に座っているビクトリアが、こそっと耳打ちしてくる。

「『イアン君は、演技力は素晴しいのですが……お歌がちょっと』って、劇団長に言われたのよね。お家で歌の練習して下さいって。あなたが教えてあげて」
 
「俺は歌なんて無理だよ」

「ダンスの時も渋っていたわよね? 本当は歌も上手なんでしょう?」

「歌は本当にダメなんだって」

「そう言われると聞いてみたくなるわ。ねぇ、少しで良いから歌ってみて! お願い」

 ちょっと意地悪な顔で上目遣いにおねだりしてくるビクトリア。