数年後――。
 
 仕事が休みだったアシュレイは、屋敷でのんびり過ごしていた。
 
「すぴぃ〜すぴぃ〜。――はぁう!」

 アシュレイの腕の中で、さっきまでスヤスヤ眠っていた赤ん坊がパチリと目を覚ました。

 柔らかなブロンドの髪に大きな青い瞳。キョロキョロ視線を彷徨(さまよ)わせたあと、一点を見つめて「う~~」と手を伸ばす。

 赤ん坊が見ていたのは、写真立てが所狭しと飾られている部屋の一角だった。
 
 運動会の徒競走で一位を取り、泥だらけでピースするイアン。
 国立劇場公演で主演を務め、楽屋でイアンに花束を贈られ微笑むビクトリア。
 夏休みに三人で南の島に旅行へ行った時の写真。
 
 結婚してから写真撮影が趣味となったアシュレイが、数年かけて撮りためた宝物ブースだ。
 
 ひとつひとつ見せていると、赤ん坊が「あぅあぅ」とお喋りを始めた。

 相変わらず何を言っているのか、さっぱり分からない……。
 が、一生懸命なにかを伝えようとする我が子に、自然と頬が緩む。

「これはパパとママが結婚したときの写真なんだ。ほら、イアンお兄ちゃんも映ってるよ」

「にぃ、にぃ!」

「レティがもう少し大人になったら、おめかしして四人で家族写真を撮ろうか」