「もちろん。それほど時間は経っていないはずなのに、なんだか懐かしいな」

「ええ、本当に。アシュレイ様ってば、すごく嫌そうな顔で私のことを抱き上げていたでしょう?」

「嫌そうな顔なんてしてないよ!」

「じゃあ、重かった?」

「いいや、全然。君は羽のように軽かった」

 その答えを聞いて、私はまた笑ってしまう。

 初めて会った時の彼は無口、無表情、無愛想で、とても話しかけられる雰囲気じゃなかった。

 それなのに――。
 今は優しく抱きしめられて、宝物のように大事にされている。

 胸の内に、くすぐったいような甘酸っぱいような幸せな気持ちが広がって、私はまたクスクス笑った。

「また思い出し笑い? はいはい、どうせ昔の俺は無愛想でしたよ」

「もう、拗ねないで。人生なにが起きるか分からないなぁって思っていただけよ」

「それは、俺も同感」

 アシュレイは目を優しく細めると、私の顎に指をかけて唇を重ねた。
 
 逞しい腕に抱かれ、クラクラするほど熱く甘いキスにしばし酔いしれる。
 
 ガタンと馬車が揺れて唇がはなれた瞬間、私は夢から覚めたように目を開けた。

「もう着いたのか。あっという間だったな」

 アシュレイの呟きを、私はキスの余韻でぼんやりしながら聞く。