何も言わず互いの存在を確かめ合っていると、少し離れた場所からズビッと鼻をすする音が聞こえてきた。

 視線を向けると、マクガレン隊長が真っ赤な目でこちらを見つめている。隣に立つ夫人が苦笑しながら、夫にハンカチを差し出した。

 アシュレイは私から体を離すと、マクガレンに向かって軽く頭を下げる。
 
「マクガレン隊長、この度はご心配をおかけしました」

「ったく、心配したなんてもんじゃねぇぞ! 俺が『死ぬなよ』なんてお前に言ったから、死亡フラグ立てちまったかと思ったじゃねぇか! 無事なら報告しろよな!」

「オスカー殿下に気付かれないよう、秘密裏に帰還したかったのです。勝手な行動をお許し下さい」

「駄目だ。許さねぇよ」

「ちょっとあなた、何を言ってるんですか! アシュレイさんはオスカー殿下の陰謀を暴くために行動していたんですよ。ねぇ?」

 たしなめる夫人にかまわず、マクガレンは頑として『許さん』と腕組みして言った。

「報告、連絡、相談が出来ねぇ部下にはお仕置きが必要だ。つーわけで傷が癒えるまで、お前は家族サービスの刑に処す!溜まりに溜った有給休暇、少しは使いやがれ」

「隊長……ありがとうございます」

 マクガレンは豪快にガハハと笑うと、夫人を伴って去って行った。