「ただいま。心配かけてごめん」

 謝らないでと、私は首を横に振った。
 込み上げる喜びで胸がいっぱいになり、あふれる涙で言葉が詰まる。

 私を抱きしめたまま、アシュレイが耳元で優しく囁いた。
 
「俺が生きていられるのは、君のおかげだ」

「私?」

「ああ。崖から落ちた瞬間、正直、死を覚悟した。そんな時、君の声が聞こえた気がしたんだ。――『無事に帰ってきて』って。生まれて初めて、死にたくないと思った。君の存在が俺の生きる理由になったんだよ」
 
「アシュレイ……」
 
 顔を上げ、指先でそっとアシュレイの前髪に触れる。額には包帯が巻かれており、消毒液のツンとした匂いに混じって、かすかに鉄のような血の匂いがした。
 
「怪我は大丈夫なの? お医者様にはきちんと診てもらった?」

「大丈夫、大したことないよ。すぐに治るさ」

「良かった……」

 再び安堵の涙が込み上げてきて、私はアシュレイの胸に顔を埋める。頭をゆっくり撫でられながら、私は幸せを噛みしめた。