心の中で、愛しいひとの名を呼んだ瞬間――大広間の扉が勢いよく開け放たれた。
 
 人々が一斉に広間の入り口を見やる。
 
 あまたの視線に晒されながら、救国の英雄はマントをひるがえし凜と胸を張って、堂々と広間の中央を歩いた。

 頭や腕に包帯が巻かれているものの、彼の足取りは軽やかだ。
 怪我をしてはいるが無事な様子がうかがえる。
 
 
 ああ、良かった。
 生きて、帰って来てくれた……。

 安堵のあまり私の目から涙がこぼれ落ちた。
 
 
「アシュレイ・クラーク。ただいま帰還致しました」

 国王陛下と王妃殿下の前で優雅に膝を折ったアシュレイは、胸に手を当て、深々と(こうべ)()れる。

 壮健な姿を目の当たりにしたオスカーは、まるで幽霊を見たかのような驚愕の表情を浮かべていた。

「貴様……なぜ、ここに……」

「あなたに崖から突き落とされ、死んでも死にきれず地獄から舞い戻って参りました」

「僕が貴様を崖から突き落としただと? でっ、でたらめを言うな! どこにそんな証拠が……」

「証拠ならございます。ロジャース――!」