声をかけた時、呆然としていたオスカーがハッとした様子で顔を上げ、「やれ!!」と意味不明なことを叫んだ。

 何かと思った瞬間、アシュレイの背中に衝撃が走った。
 
 次いで、焼け付くような痛みが全身に広がっていく。
 
「なに……を……」
 
 振り返ると、そこには青ざめた顔で血の付いた剣を構えるロジャースがいた。

「早くとどめを刺せ!」

 再びオスカーが叫んだ。

「……申し訳……ございません……!」
 
 ロジャースが剣を振りかぶる。
 勢いよく振り下ろされた一撃を、アシュレイは何とか剣で受け止めた。
 
 断崖絶壁で刃を交えたまま、数秒の(つば)迫り合い。
 勝敗を決めたのは、ロジャースでもアシュレイでもなく、オスカーの一撃だった。

「証拠が残ると面倒なんだ。まとめて死んでおくれ」
 
 声が聞こえた瞬間、オスカーが全体重をかけてロジャースの背を思いきり蹴り飛ばした。

「――!」

 痛みで鈍化した体は衝撃に耐えきれず、突き飛ばされる形で、アシュレイはロジャースともども宙を舞った。足場が消え、ふわりと体が浮く。
 
 
(ビクトリア……イアン……)
 
 
 断崖絶壁から転落したアシュレイが最後に見たのは――。

「さようなら、救国の英雄殿」

 歪んだ笑みを浮かべる男の姿だった。