屍の上を飛び越え、群がる敵兵をアシュレイは馬上から槍の一振りで(ほふ)った。
 
 その時、近場から「ひぃぃっ」という情けない声が聞こえてきた。

 見れば、オスカーが馬上でぶるぶる震え「来るなッ、来るなぁッ」と叫んでいる。

 怖いのなら黙って自陣へ逃げれば良いものを。
 
 悲惨な状況を目の当たりにして恐慌状態(パニック)に陥ってしまったのか、オスカーは何故か前方へ駆けだした。
 
「殿下、そちらは崖です。危ないのでお戻り下さい――!」

 必死に叫ぶが、錯乱したオスカーには届かない。それどころか、馬の腹を蹴り、戦場の奥へ奥へと走り続ける。

「チッ、あの暴走王子、何を考えているんだ」

 アシュレイは思わず舌打ちした。だが冷静さは失わず、愛馬を()って追いかける。

 王子を守るはずの親衛隊は、みな練度が低く、己の身を守るだけで手一杯のようだ。辛うじて親衛隊長のロジャースだけがオスカーに付き従っている。

「殿下、お待ち下さい! そちらは崖! 止まって下さい!」

 ひときわ大きく叫んだその時、前方のオスカーの馬に流れ矢が当たった。
 
「うわっ――!」
 
 前足を高くあげて馬がいななき、オスカーが間抜けな声を上げながら転げ落ちる。

 アシュレイも馬から下り、崖際でうずくまる彼に駆け寄った。
 
「お怪我はありませんか」