「わりぃな。海で敵艦隊とやり合いながら、アレのお守りをするのは、いくら俺でもキツいわ」

 困り顔で頭をガシガシ掻くマクガレン。

 鬼の隊長と呼ばれた彼を、こんな風に困惑させられるのは、この世でオスカーくらいかもしれない。やはりあの王子、意外に大物だ。
 
 最終確認が済んだところで、マクガレンが各隊の隊長騎士をぐるりと見渡した。

「俺から言うことはひとつだ。絶対に死ぬな。テメェの命も守れねぇ奴に、国だの民だのは守れねぇよ。生きて、この国の盾となり剣となれ――!」

 作戦開始の合図と共に、騎士達の気迫に満ちた声が響き渡った。

 
 
 それから数時間後。
 霧の立ちこめる海の向こうから巨大な敵戦艦が姿を現した。
 
 魔道望遠鏡で敵船を確認したオスカーは、あまりの大きさにその場で無様に腰を抜かした。
 
 側に控えるアシュレイへ「な、なんだあれは!」と怯えた顔で喚き散らす。

「我が国の船の三倍はあるじゃないか! こちらの船など、まるで小魚のようだ……。ほ、本当にお前の策で勝てるんだろうな!?」

「小魚には、小魚なりの戦い方があるのですよ」

「――は? 何を言っているんだ……」

 敵船の巨体が轟音をあげて傾くのを確認して、アシュレイは不敵に笑った。
 
「オスカー殿下。今から、小魚が鯨を食うところをご覧に入れましょう」