「敵船を沈めてしまっては、戦果が分からないだろう?」

「戦果、ですか……?」

「そうだ。目に見える戦果がなければ、僕の武勲を証明できない。敵兵を陸におびき出し、全員の首を()ねる。それを一つ残らず回収し報告すれば、この戦がどれほど大変なものだったのか、あまねく国中に知らしめることができるだろう」
 
 ――と、オスカーは平然と言ってのけた。

 この箱入り王子は知らないのだ。
 人の命を奪う恐ろしさも、奪われる悲しみも。
 
 命がけで任務に当たっている騎士の中で、この男だけは戦争を盤上遊戯(ゲーム)のように軽く見ている。

 何が武勲だ。己の命をかける気概(きがい)もないくせに。

 アシュレイは拳をぐっと握りしめた。

 他の騎士たちが『やめておけ』と目で訴えかけてくるが、ここで王子の言いなりになっては多くの犠牲者が出るかもしれない。

 それだけは、己の騎士の矜恃が許さなかった。

「恐れながら、殿下に進言いたします」

「なんだ?」

「戦場は、あなたの武勲を証明するための遊び場ではありません」

「――なっ! 貴様ッ、なんて不敬な! 僕はこの作戦の総指揮官だぞ」