「あの人、初陣でしょう? これまで(かたく)なに戦場に出なかったくせに、どうして今さら。しかも、よりによってこの重大な局面で」

「だからこそ、戦場デビューに相応しいと思ったんだろう」

「あぁ、なるほど。手柄を上げて、なんとか王族の地位にしがみつきたいワケだ」

 ジェイクの囁きに、アシュレイは無言の肯定をした。
 
 現王には後継となる二人の王子がいる。

 文武に優れた第一王子のルイスと、秀でた才はないもののプライドだけは高い第二王子オスカー。

 幼い頃から乳母と教育係に厳しく躾けられたルイス殿下に対し、オスカー殿下は王妃の手で大切に育てられた。いわば箱入り息子だ。

 二十歳を過ぎても一度も戦場に出ることなく、公務も欠席しがち。国王の決めた縁談を勝手に破棄するなど、王妃の後ろ盾を笠に着てやりたい放題だ。

 しかし、ここ最近は状況が変わってきたようだ。
 
 体調の思わしくなかった国王陛下がエリザの事件を耳にして倒れ、とうとう第一王子ルイスへの生前譲位を決めた。

 これにより第一王子派閥の権力は一層強まり、事実上の新国王として王宮に君臨することとなった。