遠征部隊は一糸乱れぬ隊列で、王国南部を目指し進んでいた。

 目的地が近付くにつれて、張り詰めた空気がさらに研ぎ澄まされていく。
 
 (いくさ)前の独特の緊張感に包まれ、アシュレイは手綱を引く手に力をこめた。

 
(必ず生きて帰らなければ――)

 
 事の起こりは今から少し前。
 密偵騎士から、隣国の武装船団が我が国に向けて出航したとの報告があがってきた。

 前回は地上戦で我が国に敗北したため、今度は海から攻め込もうという算段らしい。

 戦争に巻き込まれるのは、豊かな国の宿命だ。
 
 魔道石が採掘できる鉱脈を多く持ち、優れた加工技術と職人を有する我が国は、周辺諸国から常に狙われている。

 密偵からの知らせを受けた騎士団は、すみやかに迎撃作戦を決行。
 
 アシュレイ率いる第一騎士団も出征するよう、上層部から命令が下った。

 総指揮を執るのは、経験豊富なマクガレン隊長……のはずだったが。

 
「よりによって総指揮官がオスカー殿下って、大丈夫なんすかねぇ。一応、マクガレン隊長が補佐につくらしいですけど、正直、俺は心配っすよ」

 馬上から身を乗り出したジェイクが、潜めた声でアシュレイに耳打ちした。