まだ朝日も昇らぬ早朝――。
 アシュレイは身支度を済ませ玄関に立ち、腰のベルトに剣を差した。

 騎士服の上にマントを羽織った彼は、私を見て優しく微笑む。

「じゃあ、行ってくるよ」

「気をつけて。約束、必ず守ってね」

「あぁ、早く片付けて帰ってくる。イアンを頼んだよ」

「ええ、任せて」

 両手を広げるアシュレイの胸に飛び込むと、いつもより強く抱きしめられる。

 しばらく抱き合ったままでいると、背後から小さな足音が聞こえてきた。

 振り返ると、眠い目を擦りながらイアンが階段を下りて近付いてくる。

 
「間に合った! アシュレイ、怪我しないでね」

「うん、気をつけるよ」

 イアンの頭を撫でるアシュレイに、私は桃色のクマ人形型録音機を手渡した。

「昨夜、イアン様と一緒に応援メッセージを録音しておいたんです。寂しくなったら聞いてね」

「ありがとう。これでホームシックになっても我慢できそうだよ」
 
 アシュレイは私とイアンをまとめて抱きしめ、それぞれの額にキスをした。

 マントをひるがえし、愛馬の上にひらりと飛び乗る。

 
「じゃあ、――いってくる」
 
 颯爽と駆けていくアシュレイの背中がだんだん小さくなり、ついに見えなくなった。

 ――どうか、無事に帰って来て。

 白み始めた東の空を、私は祈るような気持ちでいつまでも見送った。