「ビクトリア。本当に、君にはいつも驚かされるよ。だけど、凄く嬉しい。――ありがとう」

 アシュレイは目を細め優しく微笑む。別れを惜しむように、互いの存在を刻みつけるように、私達は深く情熱的に口付けを交わした。

 
「愛している。今夜……結婚しよう、ビクトリア」

 囁くアシュレイの唇に、もう一度自らの唇を押し当て、私は「はい」と頷いた。
 

「それじゃ、すぐに婚姻届を出さなきゃいけないな」

「婚姻届? この時間は役所が閉まっているわ」

「大丈夫。任せて」

 アシュレイは私の手を取り、馬車で騎士団本部へ向かった。

 騎士団の敷地内には、騎士とその家族だけが利用できる特別な教会がある。
 夜遅くにも(かか)わらず多くの人が訪れていた。
 
 聖堂では、騎士やその家族が祈りを捧げている。

 通常、入籍するには役所へ婚姻届を出さなければいけないのだが、騎士は特例。この教会で申請が可能らしい。

 婚姻届と明記された書類に二人でサインをする。係員に提出すると、驚くほどスムーズに受理された。

 シスターに先導され、聖堂の隣にある小さな教会へ足を踏み入れる。
 
 祭壇の前に立つと、静寂の中に神父の(おごそ)かな声が響き渡った。

 アシュレイと私、それぞれが誓いの言葉を述べ、最後に向かい合う。
 
「それでは、誓いの口づけを――」

 闇夜の教会に、月明かりが差し込む。
 神聖な祈りに満ちた空間で、私たちは生涯の誓いを立てた。