「安全な調査任務というのは、嘘ですよね? あの時は、イアン様を不安にさせないように、安全だって言ったんでしょう?」

 そう切り出すと、アシュレイは「やっぱりビクトリアさんには嘘はつけないな」と困ったように肩をすくめた。そして両手を組み、考えながら訥々(とつとつ)と話し出す。

「俺たち騎士は、時に家族にも話せない任務へ赴かなくてはいけません」

「それが、今回なのですね?」

「ええ。詳しくは話せませんが、安全とは言い難い任務です。だから、万が一、俺に何かあった場合に備え、諸々の手配は済ませておきました」

 アシュレイは「念のため」と言って、金庫の鍵と、権利関係をまとめた書類を私に託した。

「具体的な手続きは家令に任せてあります。決して、あなたとイアンに不自由な思いはさせません。だから心配しないで……って言っても、無理な話ですよね」

 必死に平静を装うが、不安と動揺で震えが止まらない。それを見たアシュレイがこちらに手を伸ばし、私の体を優しく抱きしめた。