酒盛りをはじめる私たちをジトッとした目で見つめ、口を尖らせた。しかし「ジュースもありますよ」という私の言葉で、すぐさま笑顔になる。

 葡萄ジュースのグラスを持ったイアンが、定位置である私とアシュレイの間に座った。
 
 三人並んで座るのが習慣になったのは、一体いつからだろう。

 日常の中で育まれる『当たり前』に気付くたび、ここが私の居場所なんだと実感する。
 
 心にぽっと灯りがともるような、温かな気持ちになった。

「ところでイアン。『かこつけて』なんて言葉、どこで覚えたんだ?」

「キャシーがよく言う」

「最近の子は、本当に何でも知っているんだな」

 二人のほのぼのとした会話を聞きながら、私は前世の記憶があって良かったな――としみじみ思った。
 
 前世で培われた演技力がなければ、イアンにひとときの夢を見せることは出来なかった。

 ナレーションの仕事も出来なかったし、そもそもオーディオブック風の魔道具を作るという発想もなかっただろう。

 青春をすべて仕事に捧げた前世の自分――女優の麗華(れいか)
 
 生まれ変わりである私に記憶を思い出させるほど、彼女の未練はすさまじいものだったのだろう。

 あたしの人生なんだったんだろう。
 あぁ、こんな人生、いやだなぁ――。
 
 死ぬ間際の麗華の悔しい気持ちは、今でも鮮明に思い出せる。