「分かりました。飾り付けはイアン様の担当?」

「そう! 焼くのはビッキー、僕は盛り付けと食べる係ね!」
 
「了解です。じゃあ、まずは手を洗ってきて下さい」

 イアンは「はーい!」と言って、ご機嫌に走って行った。

 だが私は知っている。テストは一科目だけじゃないことを。

 さて、苦手な国語のテストは何点だったのかな?
 
 
 ソファの上に放り出されたカバンから、紙が数枚はみ出ている。するりと抜き取ると、やはりそれは他の科目のテスト用紙。

「どれどれ――。うん、他の科目も良い点数……。あぁ、やっぱり。国語は45点だわ。特訓が必要ね」

 僕、国語きら~い、とふてくされるイアンの姿が容易に想像出来てしまう。

 
「パンケーキを食べてご機嫌とってからにしましょう。――ん? これ何かしら」

 テスト用紙の間に別の紙が挟まっていた。どうやら自由作文の宿題のようだ。

 テーマは『あなたの願い事』について。締め切りは今月末まで。
 
 筆が乗っていないのか、原稿用紙はほとんど空白だった。

 そこに綴られていたのは、ただ一行。

 ――ママに会いたい。

 二度と叶うことのない願い事だった。