脅迫騒動も無事解決し、穏やかな日常が戻ってきた。

 アシュレイの婚約者になったとはいえ、私の生活が劇的に変わることはなく、日々のルーティンは家庭教師時代とほぼ同じ。

 唯一変ったことといえば、在宅で副業を始めたことくらいだ。

 平日昼間の空き時間を利用し、私は録音機能が付いた魔道具に音声を吹き込む仕事――前世でいうところのナレーターのような仕事を始めた。

 
 ことの始まりは、アシュレイ行きつけの魔道具店に行った時のことだった。

 いつもは明るい店主が、その日は酷く落ち込んでいた。

 話を聞くと、どうやら発注ミスで魔道録音機の在庫を大量に抱えてしまったらしい。

 生活必需品でもない上に、高価な品だから中々売れない。しかも仕入れたのは旧型のため、新しい物好きな貴族には見向きもされない。
 
 メインターゲットの貴族層に売れない大量の魔道具が、倉庫と店主の心を圧迫しているようだ。

「特売セールで売っちまうしかないのかぁ……」

 店主の言葉に、アシュレイが腕組みして考え込む。