「父さん。会社の跡取りとしてやっていく気はもちろんあるよ。そのつもりで最近は動いている。周りもそう思っているのもわかっている。それと百合との結婚に何の問題があるんだ?ピアニストでもいいじゃないか。彼女に、宣伝してもらうことも出来る」

 「ピアニストとしての未来などおそらくない。子供を育て、社長夫人としての業界での立場もある。少なからず決まっている社交もある。大体、自分のスケジュールは自分で決められん。それがこの社長夫人という椅子に座るものの運命だ。彼女のためにも反対だ。将来あるピアニストなのに気の毒だろ」

 黎は用意してきた契約結婚の書面を父の前に並べた。

 「なんだこれは?」

 「父さんに納得してもらうまでは契約結婚をする」

 「……なんだと?」