百合は要をまっすぐに見ながら答えた。

 「百合!そんなことを言わせるためにここへ連れてきたんじゃない。父さん、彼女は俺といるためにピアノを捨ててもいいと言ってくれた。そして、父さんと俺を仲違いさせたくないから別れたいと言った。だが、俺は別れる気など全くない。百合以外の女性と結婚する気もないし、彼女と結婚できなければ一生結婚しなくていい。事実婚でもいいんだ」

 まくしたてる息子を冷めた目で見つめる。

 「……黎。お前には失望した。色恋に目がくらんで、自分の立場を忘れ、親を馬鹿にするのもいい加減にしろ。栗原さん。あなたが嫌いなわけではない。人間的にどうこうとか思ったこともない。生い立ちのことも、まあ色々あるが、所詮過去のこと。しかし、黎の嫁となると話は別だ。こいつは会社の跡取りだ。他の奴に継がせる気はない。それがわかっていながら、あなたのために自分の家も運命も投げ捨てるような台詞を軽々しく口にするとはな……それ自体許せないんだよ」

 百合は二人が睨み合っているのを、オロオロしながら見ていた。