「……あ、いや。かけてくれ」
最初から謝られてしまい、どう話していいかわからなくなった。そして、彼女の綺麗な微笑みにのみ込まれる感じがしたのだ。
「栗原さん。私が黎の父の堂本要です。初めまして。君のことはだいたいのことは知っている。君のお父さんからも電話をもらったよ。黎と結婚してくれるなら万々歳だそうだ」
急に冷えた声で話し出す父を黎は静かに見つめた。百合は顔を曇らせた。
「父さん。それなら、百合との結婚を認めて下さい」
「百合さん。黎の妻になるということは、いずれうちの会社の社長夫人になるということだ。社長夫人としての仕事を優先して、ピアノをやめることが出来ますか?」
「ピアニストとしての活動が出来なくなるかもしれないのは覚悟しています。ただ、趣味で弾くことはお許し頂けると嬉しいです」