声を荒げて非難する母に黎は苦笑いをした。
 
 「母さん。興奮しないで……その言葉を彼女が聞いたらどれだけ喜ぶか。早く会わせたい。本当なら先に会って欲しかったんだ」

 「そうね。私も会いに行くか迷ったけど、差し出がましいことはしてはいけないと思ったの。こういうことはね、本人次第なのよ。ふたりにしかわからないことがたくさんある」

 「とりあえず、一緒に父さんと会って、話してみるよ。ダメなら助けて欲しい。というか、母さんの応援を期待しているんだ」

 「お相手がピアニストだということも、彼を躊躇させている理由だと思う。ただ、あなたの考えも悪くはないわ。彼にとって会社の利益と評判は自分にとってのものと全くかわらない。自分のもうひとりの子供といつも言っていたくらい、会社への愛着は深い。それを忘れないで」