「……それは、本当なのか?で、父親が接触してきているというのは?」

 「まあ、ようするに知名度のある百合が自分の選挙に役立つと思ったんだろう。今まで隠してきたが、娘であることを公表してもいいと思っているらしい。亡くなった彼女の母親のことはうまくごまかして公表する気らしい」

 「ひどい親だな。百合は拒むだろう」

 「百合はメールの返事もよこさないと言っていた。それでしょうがなく俺に連絡してきたのさ。俺は彼女を雇う前に調べたんでね。規則もあって。彼女がこの事務所で冷遇されているのは上層部がそういった彼女の後ろにあるものを知っているからなんだ。触らぬ神にたたりなしってとこだ」

 そうだったのか。だから、自分のピアニストとしての見通しが立たないとか色々言っていたんだと初めてわかった。そして、そういった悩みを誰にも言えずひとりで背負い続けている百合を思うと胸が痛んだ。

 神楽は黎が悲痛な面持ちで考えているのを見ながら、最後の一矢を投げた。