ポーカーフェイス気味だった女子高生が笑顔でピアノの椅子に座ったままの俺の方に近づいてくる。

「気持ちよかった!楽しかった!あなたは?」

気持ちが高ぶって、はしゃぐ姿は、"お嬢様"ではなく等身大の女子高生だった。

「俺も、楽しかった。」

普通にすぎていく、俺の毎日に彩りを加えてくれた。
笑顔が眩しかった。






『こんな可愛い子、誘拐されてしまうから送っていきなさい』とマスターが言うから、俺はその子を家に送ることになった。
外は少し肌寒い。


「途中までで大丈夫ですからね。お手伝いさんにバレたらまずいことになっちゃうので。」
「お前ん家、お手伝いいんの?」
「そうなんです。…息苦しい。」

そう言って少し震える寒そうな体に、俺は自分が羽織っていたパーカーをそっとかけた。
今思うとキザなことしてるなって、恥ずかしいことだ。


「苦しいなら、いつでもあの店に、逃げてきていいんだからな。」

「…夢見てるのかな。」

店に入ってきた時は少し強気な感じで、歌えば笑って、そして今は、

泣いている。


「今日楽しかった…、今までで1番、私が私で…いられた……」

角を曲がり、細道に入る。
俺は人目につかないように抱きしめ、涙ぐむ彼女を隠した。