「そうだった。…急に現れて、…急にいなくなったんだ。」

悲しそうに回想する目の前の男性。


「お母様はどのような人でしたか?、ここでは…」

「ここで、か…」


私の問いに、ゆったりとした口調で男性は語り始めた。








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もう20年も前だろうか。
今日と同じ、秋の夜風が吹く、そんな時。

就活がうまくいかず、バイトの延長で雇ってもらったバー。
収入もそこそこ、仕事は楽しい、それなのに、
周りの奴らが羨ましくて、妬ましかった。



「いらっしゃ…!?」
いつもと変わらない、普通すぎる日々に突然現れた、制服姿の女子。

(なんで、JKが…)

夜遊びしそうな荒れてるような見た目でもない。
むしろ逆だ。
清楚という感じだ。
白肌、綺麗なブラウンの髪の毛、ほんのり色が左右違う瞳。

「あれあれ、若い子がこんなところ来ちゃだめだよ。」

今は亡き先代のマスターがその女子高生に声をかける。


「マイクのマーク…」


どうやら彼女はカラオケか何かと間違えたみたいだった。
まぁ、この店の看板には"Bar"なんて文字書かれてないからな。

「君、歌うのは好きかい?」

マスターの問いに、食い気味な姿勢で女子高生は話し出す。