月日は流れた。
初恋の痛くて苦しいあの傷は、何事も無かったかのように癒えていた。

アルバイトに行く回数も減った。
物理的距離をとるためだ。
ただでさえ学校で会うのだから、こうしないと私が持たなかった。

私はその代わりに夢中になれることを探した。


『ニカはとても綺麗な声を持ってる。いつか私と一緒に歌って欲しいな』


私が病弱でよく入院をしていた時、お母様が言ってくれた言葉を急に思い出した。
お母様は学校も行けていなかったし、目立つような活動はしていなかったけど、結婚する前、体調の良い時はバーでよく歌っていたらしい。

自分が良家の娘だということを隠し、好きなことに打ち込めることが出来るその場所は、お母様にとっての生きがいだったそう。

小さい時はよく分かっていなかったことも今なら理解ができた。


きっと私もお母さんと同じ道を歩むことになるんだろう。


私は家から離れた駅前の一軒のバーの門を叩いた。







「いらっしゃ…」

お店の中に入ると、男の人と目が合った。
その男性は私を見るなり、動きが止まった。


「れ、麗華、、さん?」


麗華。
この名前は私のお母様の名前だ。

「母をご存知でしょうか?」
「む、娘さん!?」