「ジュリア、お願いだ、待ってくれ!」
「王子さま、邪魔しないで。ジュリアさまに用事があるのは私よ? そもそも勝手について来るなんて最低。やめてよ!」
 レオンの行く手をユリアが邪魔した。
「レオンさま、あなたの追いかける相手はユリアさまです。私じゃありません!」
 走り去りながら叫んだ。
ユリアの妨害のおかげで、時間を稼げた私はレオを抱きかかえたまま海を目指した。

「見えた。海!……なんてきれいなの」
息を切らしながら防風林を抜けると、青い空と煌めく海が広がっていた。
ざざっと音を立てて打ち寄せる白波に胸が躍る。
「ジュリアさま、猫神さまを寄こしなさい!」
 振り返ると、ユリアがすごい形相で追いかけてきていた。
「お嬢さま、ここは私が食い止めます。お逃げください!」
 ローリヤが両腕を開いて道を塞ぐ。彼女を置いて行くことに躊躇していると、
「お急ぎください。猫島でお会いいたしましょう」
「わかったわ。先に行く。無理はしないでね」
 彼女に声をかけて再び駆け出した。

 防風林の遊歩道を抜けてこの場を離れようかと思ったけれど、そっちからは回り込んだレオンが現れた。私は、海に向かった。
 大きな石混じりの砂浜は走りにくい。足を取られて進んでいると、小さくて黄色い花を咲かせたネコノシタの傍に、錆びネコが寝転がっていた。
 驚かせてしまったらしく耳をぺたんと倒して警戒している。
「猫さん、お昼寝の邪魔をしてごめんなさい!」
 猫に謝っているとレオンに追いつかれた。

「みゃあーん!」
 突然、腕の中にいたレオが大きな声で鳴いた。すると、群生していたネコノシタから、猫がわらわらと現れた。みんな一斉に王子に群がる。
「猫たち、すまない。邪魔しないでくれ!」
 腕や足に猫がぶら下がっている。とてもうらやましい。と思っている場合じゃない。
 今のうちに逃げなくちゃ。
 身を隠して逃げられないかとあたりを見たとき、ふと気づいた。海の向こうに見える島に、数軒の家がある。

 もしかして、あそこが猫島?
 引き寄せられるように波際に近寄った。
「ジュリア、何している。それ以上近寄ると波にさらわれる!」
 群がる猫を振り切り、追いついたレオンに腕を掴まれた瞬間、太腿が浸かるほどの波が押し寄せた。

「みゃあッ!」
 波とレオンに驚いたレオが、腕から逃げようとしてそのまま海に落ちてしまった。
「レオ!」
 すぐに海に飛び込んだ。あわてて追いかけたけれど、水分を含んだスカートが足に纏わり付き前に進めず、膝から崩れ落ちた。急いで立ち上がり、手で波をかき分け、小さな仔猫を探す。
「レオ! どこ!?」
 引き波の力は強い。仔猫の小さな身体をあっという間にさらってしまう。不安と焦りで声を荒げてレオを呼んだ。