「ジュリアさま、猫さま、ありがとうございました」
食べ終えた少年追跡者たちは、私と猫に向かってそろって頭を下げた。ずっと一緒にいると目立つ。彼らとはそこで別れた。
「お嬢さまは優しすぎます。食料と日用品すべてあげてしまうなんて。おかげで馬車の荷台は空っぽです」
私は彼女に苦笑いを返した。
正直、追跡者が子どもなのは驚きだった。しかも着ている服は破れ、身体は痩せ細っていた。
詳しく事情を聞くと、蝗害で農作物が育たず、食べるものがないと教えてくれた。
路銀も渡そうとしたら、お金ないと旅は続けられないだろとトビーは言って、受け取ってくれなかった。
「私、蝗害を甘く見ていたわ。思っている以上に酷く、猶予がないわ。被害を受けるのはいつも弱い立場の人たち。蝗害を高位貴族は私以上に軽視している。他人事なのが現実よ」
高官たちは、いつか現れる聖女頼みで、何の対策も講じなかった。
早く対処していれば事態はここまで深刻にならなかったのにと悔しくて胸が痛い。
「せっかくレオンさまが婚約破棄してくれたんだもの。私に何ができるか、考えたい。行きましょう」
自分の財産を分け与えるだけでは民のみんなを救うことはできない。
まずは現状をこの目で把握して、自分にできることを探そう。私は立ち上がると馬車に飛び乗った。
*
猫連れの旅はとても楽しい。
旅に必要な物をそろえながら、村や町を回った。蝗害で食料不足なのに行く先々で、猫がいるからと引き留められ、手厚いもてなしを受けた。
この世界では、猫が食料や料理を盗むとその分客が来て、幸福が舞い込むと信じられている。断ると悲しまれ、レオの食事分だけありがたく頂いた。
猫の恩恵にあやかりたいのもあるが、何よりみんな、猫が好きだった。
村を少し歩けば、すぐに日向で昼寝している猫に遭遇する。みんなお腹を晒しリラックスしている。絞ったぞうきんのように身体がねじ曲がっている猫もいた。
「やっぱり、この国は猫の楽園だったのね」
王妃教育期間中は遠出ができない。猫の数は、想像を超えていた。
心配していた追加の追跡者は来なかった。
王都からもずいぶん離れ、遠くまで来た。道を進むほどに緑は減り、田畑は荒れていく。
「ここは麦の畑? 全然育ってないわね」
外を眺めていると車窓に蝗虫がぺたっと止まって、ローリヤが「ひいッ」と声を上げた。
「お、お嬢さま。視察はもうこの辺でよろしいのでは? さっさと海に行きましょう!」
彼女には悪いけれど、まだ全体を把握したとは言えない。私は首を横に振った。
「この先に、蝗害があった村があるはずなの」
ローリヤはしぶしぶ頷いた。
食べ終えた少年追跡者たちは、私と猫に向かってそろって頭を下げた。ずっと一緒にいると目立つ。彼らとはそこで別れた。
「お嬢さまは優しすぎます。食料と日用品すべてあげてしまうなんて。おかげで馬車の荷台は空っぽです」
私は彼女に苦笑いを返した。
正直、追跡者が子どもなのは驚きだった。しかも着ている服は破れ、身体は痩せ細っていた。
詳しく事情を聞くと、蝗害で農作物が育たず、食べるものがないと教えてくれた。
路銀も渡そうとしたら、お金ないと旅は続けられないだろとトビーは言って、受け取ってくれなかった。
「私、蝗害を甘く見ていたわ。思っている以上に酷く、猶予がないわ。被害を受けるのはいつも弱い立場の人たち。蝗害を高位貴族は私以上に軽視している。他人事なのが現実よ」
高官たちは、いつか現れる聖女頼みで、何の対策も講じなかった。
早く対処していれば事態はここまで深刻にならなかったのにと悔しくて胸が痛い。
「せっかくレオンさまが婚約破棄してくれたんだもの。私に何ができるか、考えたい。行きましょう」
自分の財産を分け与えるだけでは民のみんなを救うことはできない。
まずは現状をこの目で把握して、自分にできることを探そう。私は立ち上がると馬車に飛び乗った。
*
猫連れの旅はとても楽しい。
旅に必要な物をそろえながら、村や町を回った。蝗害で食料不足なのに行く先々で、猫がいるからと引き留められ、手厚いもてなしを受けた。
この世界では、猫が食料や料理を盗むとその分客が来て、幸福が舞い込むと信じられている。断ると悲しまれ、レオの食事分だけありがたく頂いた。
猫の恩恵にあやかりたいのもあるが、何よりみんな、猫が好きだった。
村を少し歩けば、すぐに日向で昼寝している猫に遭遇する。みんなお腹を晒しリラックスしている。絞ったぞうきんのように身体がねじ曲がっている猫もいた。
「やっぱり、この国は猫の楽園だったのね」
王妃教育期間中は遠出ができない。猫の数は、想像を超えていた。
心配していた追加の追跡者は来なかった。
王都からもずいぶん離れ、遠くまで来た。道を進むほどに緑は減り、田畑は荒れていく。
「ここは麦の畑? 全然育ってないわね」
外を眺めていると車窓に蝗虫がぺたっと止まって、ローリヤが「ひいッ」と声を上げた。
「お、お嬢さま。視察はもうこの辺でよろしいのでは? さっさと海に行きましょう!」
彼女には悪いけれど、まだ全体を把握したとは言えない。私は首を横に振った。
「この先に、蝗害があった村があるはずなの」
ローリヤはしぶしぶ頷いた。