私はつめたい声を発してから、歩き始めた。
「いや、あったな。なにかあったでしょ」
 沙耶はしつこく聞いてきたが、私は答えなかった。
 私はないよと言ってから、沙耶はふーん、そうなのねと答えていた。
 私の隣に来て、教室まで一緒に行った。
「やっぱり、仲いいメンバーで固まっているよね」
 教室に入ると、沙耶は私に言って、周りを見渡していた。
「だって、小学校からの知り合いしかいないしね」
 私はそう言いながら、自分の席についた。
「まぁ、それはそれで楽だけど嫌なところもあるよね」
 沙耶はため息をついて、自分のいすに座った。
 私は沙耶の後ろの席なので、机に鞄を置いた。
 グループは作られているが、ひとりでいる人や外を眺めている人は複数人いた。
 話さないだけでクラスには知っている人がいるから、安心できるのだろう。
「ねぇ、卓球部どうだったの?」
「…見学者、沙耶の言う通り。個性溢れる人たちばかりだった。はぁ」
 私は昨日のことを思い出してため息をついて、言う。
「…ほら、同じクラスの人、見学で来てなかった?」
 ウワサで聞いたのか沙耶は同じクラスの人を指さしていた。
「…え?誰、どこにいるの?」
 私は目をこすって、沙耶が指をさしている方向を見た。
 そこには、昨日行った見学者のひとりがいた。
「あの子……、昨日いた子…。あっ、本片手に持っていた」
 私は思い出して、なるほどと右手にグーをして、左手を広げてポンとした。
「そうそう。変わった子だって。ずっと本ばかり読んでいて。ひとりでいるから、みんなどうしたらいいか分からないんだよね」
 沙耶は腕を組んで、私に言った。
「…そういうことなのね」
 私は本ばかり読んでいる子をただ見つめた。友達もいなくて、ひとりで本を読んでいた。本を読んでいるように見えるけど、チラッとどこか見つめていた。