その場にいた皆が息を呑んだ。

「――な、なんで! だってまだ」

 ふぅと息を吐いてエルは続けた。

「厄介なことに、竜帝くんの魔力は僕にも計り知れないほどでね。彼ひとりの負の感情だけで魔王が復活してしまってもおかしくない」

 ふいに思い出した。
 私を迎えに異世界、日本にまでひとりで来てくれたリュー。
 あのとき、ティーアも花の国の人たちもその規格外の魔力の大きさに驚いていた。

「コハルは、前の竜帝くんがどうして魔王に操られたか知っているかい?」
「それは……前の竜帝妃、リューのお母さんが病気で亡くなられたからだと」

 7年前、リュー皇子がそう話してくれた。

「そう。大きな悲しみの感情。そこを魔王につけ入られた」
「! まさか」
「今の竜帝くんは、コハルを奪われた怒りと、裏切られた悲しみでいっぱいになっているだろうからね」
「それは、」
「誤解だったとしても、彼はそう思い込んでしまっている。だから、今の竜帝くんも前の竜帝くんと同じように魔王に操られてしまう可能性は十分にある」
「そんな……」