そうだ。妖精王である彼ならわかるに違いない。なにせ妖精の王様なのだ。
 妖精のことならなんでも知っているはず。

 でも今ここに彼はいない。
 ここは『妖精の国』から遠く離れた『砂漠の国』だ。

(どうしよう……)

 そのとき、ふと彼の優しい声が耳に蘇った。


 ――もし万一何かあったときには、あのブローチに呼びかけてみて。どこにいてもすぐに駆け付けるよ――


「ブローチ!」

 思い出したはいいけれど、ブローチの存在なんて今の今まですっかり忘れていた。
 竜の城の、自室の棚奥に仕舞ったままだ。
 持ってくれば良かったなんて今更思ったところで後のまつりで。

(どうしよう……)

 全身の力が抜けて、メリーを抱きしめたまま地面に座り込む。

「どうしよう、エル」

 小さく声が漏れて、遅れて涙が溢れてくる。

「メリーが死んじゃったらどうしよう。ねぇ、エル。お願い、メリーを助けて……!」

 動かない身体を抱きしめて強く願った、そのときだった。

「やっと呼んでくれたね、コハル」
「え……?」

 ゆっくりと顔を上げると、銀髪の彼がにっこりと笑っていた。