「皆、聞いてくれ! あの聖女様がこの街においでくださったんだ!」

 広間に出た途端クレマ王子のそんな大声が響いた。

 私は目の前の光景とむせかえるような血の匂いに息を呑んだ。
 大勢の負傷者が広間の床に寝かされていた。
 若い男性が多いけれど、女性や子供、老人もいて無差別に攻撃を受けたことが見て取れた。
 これも7年前に良く見た光景で、死者がいないことが奇跡に思えた。

 そんな彼らの視線が私に集中する。

「聖女様?」
「聖女……?」
「あの人が?」

 ちらほらとそんな小さな声が聞こえてくる。
 当然だ。こんな状況でいきなり『聖女』が来たなんて言われてもすぐには信じられないだろう。
 7年前はこの反応が当たり前だった。
 私は少しでも聖女らしくと姿勢を正し頭を下げた。

 クレマ王子が続ける。

「これで、もしまたあいつらが襲ってきても恐れることはない。だから皆安心して今は身体を休めて欲しい」

 それでも、人々は半信半疑の様子で。
 カネラ王子が小さく息を吐いた、そのときだった。

「聖女様、お父さんを助けてください」
「え?」