(しっかりしなきゃ)
 
 ぎゅっと拳を握り締めた、そのとき。

「本当に大丈夫ですか? もしご気分が悪ければ」

 傍らのローサからも心配の声がかかって苦笑する。

「ううん、本当に大丈夫。ありがとう。ちょっとびっくりしちゃって」
「そうですね……。魔族たちのただの妄言だと良いのですが」
「嘘に決まっているのです。魔族の言うことなんて信用できません!」

 そんなローサとメリーの言葉にヒヤリとする。
 彼に、聞こえてしまっただろうか。

 彼、カネラ王子も実は魔族だということは、ローサにもメリーにもまだ話していない。
 『砂漠の国』が魔族に襲われているという話は私をおびき寄せるための王子の嘘だった、とは伝えたけれど、カネラ王子自身が魔族だということは、なんとなくふたりにも言い出せなかったのだ。

 ――それに。

 前を歩くカネラ王子の背中を見つめて、先ほどのクレマ王子とのやりとりを思い出す。

(兄弟からあんな疑いの目を向けられて、王子こそ大丈夫なんですか?)

 気になったけれど、訊けるはずもなかった……。