しかし、クレマ王子は眉をひそめ首を振った。

「竜……? いえ、竜の姿はありませんでした」

 それを聞いて私は大きく胸を撫でおろした。
 おそらくはローサも。

「なら、」
「魔族たちです」
「!?」

 その答えに皆が息を呑んだ。

「昨夜、魔族たちがいきなり攻めてきたのです」

 強く握られた拳が小刻みに震えていた。

「私達も精一杯応戦したのですが、急なことで満足には戦えず……」

(魔族たちが、攻めてきたって……)

 それではまるで、カネラ王子がついた“嘘”の話ではないか。
 カネラ王子は続けて弟に訊ねた。

「被害のほどは」
「……今のところ死者は出ておりませんが、怪我人が多く、いま私含め動ける者で手当てを」

 死者はいないと聞いてほっとする。しかし。

「なぜ、カネラ兄様はこの街へ?」

 そこで初めて、クレマ王子はカネラ王子をまっすぐに見据えた。

「王都へ使者は出しましたが、いくらなんでも早すぎます」

 その、何か言いたそうな……いや、はっきりと疑いの眼差しを見て、私は気付いてしまった。

 ――カネラ王子も『魔族』だからだ。