「あとどのくらいで着きそうですか?」
「……」
「カネラ殿下?」
「……」
「カネラ殿下!」
「んえ?」

 やっと気が付いたらしいカネラ王子が眠そうな目をこちらに向けた。
 ……彼は当然ながら砂漠の旅に慣れていて全く疲れた様子はなく、今もおそらくぐっすりと熟睡していたのだろう。
 ローサが先ほどよりも若干強めの口調で訊き直すと、カネラ王子はゆっくりと空を見上げた。

「あー、順調に行けば、明日の朝にはクレマのいる街に着けると思うんだけど……」
「クレマ、とは?」
「弟。『魔族の街』との境にある街だから、一応見張りって体でそこに住んでる」

(カネラ王子の弟か……そういえば兄弟が何人もいるんだもんね)

 7年前、王宮にいた兄弟の何人かを見た気はするけれど会話もなかったし殆ど憶えていない。

「境にある、ということは」
「そ。明後日には『魔族の街』に入れるかな」

(明後日……)

 もう少しだと私は自分を奮い立たせた。



 ――しかし。

「どういうこと……?」

 自分の口からそんな掠れた声が漏れていた。

 翌朝到着した『魔族の街』との境にあるというオアシスの街。
 その街が、半壊していた。