「……ゃ」
「え?」

 急にたまらなく怖くなって、涙が溢れた。

「イヤっ! もう触らないで!」

 その叫び声に合わせて自分の腕がびくっと跳ねた。
 彼にもそれが伝わったのだろう。

「あれ、香の効き目切れるのやっぱり早いな」

 彼の手が私の脚にかかる。

「抵抗されたら面倒だし、さっさと済ませちゃおうか。あ、こんなとこにもキスマーク発見」

 愛情も罪悪感も何も感じられないただ事務的な台詞に絶望を覚える。
 涙でぼやけた視界の向こうで、カネラ王子は優しく微笑んだ。

「大丈夫。この美しい国で暮らせば竜帝なんてすぐに忘れられるよ」

 ――嫌だ。
 忘れたくない。
 忘れるなんて出来ない。
 私を7年の間ずっと待ってくれていた彼を。
 こんな私を愛してくれた彼を、忘れられるはずがない。

「リューーー!!」

 気付けば彼の名を叫んでいた。
 愛しい彼の名を。

 ドーン! と、凄まじい音が聞こえてきたのはそのときだった。