「レオンハルトは相変わらずまだ当主としては不安が残るな」
「そうですわね、でもわたくしはよいと思いますよ」
「え?」

 腕の中で眠るレオンハルトの頭をなでながら、アンネは優しい声色で言う。

「臆病なのはいいことですわ。人に優しくなれます」
「ああ」
「もう少し強くなってほしい、でもそれはこの子ならいつかそうなりますわ。きっと大事なもののためには勇気を振り絞って立ち上がれる、そんな子に」
「そうだな」

 二人はすやすやと眠るレオンハルトを愛おしそうに眺め、触れた。

「ううん……」

 もぞもぞと動くレオンハルトを見て、両親は微笑み合った。

 馬車がまもなくヴァイス邸にたどり着くというところで、大きく馬車が揺れた。

「おわっ!」
「きゃっ!」

 馬車は大きく右に曲がった後、強い衝撃と共に止まった。


 レオンハルトは衝撃で目を覚ました。
 誰かの腕に守られていることに気づき顔を上げると、そこには母親の顔があった。

「おかあさま……?」

 しかし、いつものような凛とした表情ではなくその額からは血が流れ落ちており、そして馬車の扉に身体を潰されていた。