「ああ、カマをかけたのよ。自分もルセック伯爵に浮気されてて困ってるんだって言ったら、『そうなんです! 私も彼の都合いい女にされてて! 他に女が何人もいて』ってね」

 それを聞いてルセック伯爵の顔色はどんどんと青くなっていって、唇が震えているのを隠すように歯で噛んで止める。

「そこで言ったのよ、私がルセック伯爵の妻ですが何か?って」
「──っ!!!」
「ええ、それはもう彼女、どんどん青ざめて、そう今のあなたみたいにどんどん顔色が悪くなって、その場にへたり込んだわね。ふふ、面白かったわ~」

 もはや夫人は笑っているが笑っていない。
 目が笑わず、そしてルセック伯爵への怒りを通り越した復讐心で溢れていた。
 目の前の男をどうしてやろうか、という考えで真っ赤な唇だけが弧を描いている。

「許してくれっ!!」
「あら、あっさり認めるのね。昔はもっと男気があったのに、そのみっともない身体に反比例して消えていったのかしら」

 ルセック伯爵はもう生気を失ったように床に座り込んでぼうっと天井を見上げる。
 そんな彼にずっと持っていてぬくもりを持ったルビーのイヤリングを夫人は投げつけた。