ルセック伯爵の背中にはどんどんと汗が流れてきており、そしてついに額からも汗が流れてきていた。
 夫人はそんな伯爵の様子など微塵も気にせずに、追及を続ける。
 そして、伯爵の顔に自身の顔を近づけて、それはそれは恐ろしい真顔でそのイヤリングの見つかった場所を言った。

「あなたが普段使っている馬車の席の下よ」
「──っ!!!」

 ルセック伯爵は夫人の予想以上の形相に恐れをなして、そのまま椅子から転げ落ちると、逃げるように床を這って部屋を出ようとする。

「待ちなさい? あ・な・た?」
「ひいぃぃぃぃっ!!」

 おそらく伯爵は今どんなホラー物語よりも恐ろしい状況に身を置いているのだろう。
 自分でやったことなのにも関わらず、夫人からいざそのことを責め立てられるとめまいと吐き気がして、そしてとんでもなく冷や汗が止まらない。
 そんな悲惨な状態でも夫人はまだ攻撃を続ける。

「で? 一人じゃないわよね? あなたの浮気相手」
「──っ!!!!」
「その子爵令嬢吐いたわよ? 自分以外に何人も女を囲っていて、自分だけを見てくれないって」
「なんで、そんなこと……」