レミはサクトの細い腕をちらっと確認して、不安そうに言った。
「岩藤くん、水槽はここに置いてくれる? 重いんだけど、ガラス製だからそうっとね」
自分がやったほうが確実かも……と、あのときレミは思っていたに違いない。
「あっ、はい……」
サクトは、レミに指示された通りにケースを置いた。
それからおもむろに話しかけた。
「市ノ瀬先輩……」
「なあに?」
「さっきのあの人……」
「リョウカのことかな? 昨年度と今年度、私と同じクラスで佐々井リョウカっていうの」
「あの人の持っているのって何ですか?」
「あれは、ラクロスのスティック。リョウカはラクロス部なの」
サクトは確認するように呟いた。
「ラクロス部の……佐々井リョウカさん……」
元々覇気のなかったサクトだったが、このときを境に、常に半分夢の中にでもいるようになってしまった。