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あの日は、最初に部員の自己紹介がおこなわれた。たいして盛り上がることもなく、あっさり終わった。
それが済むと、成長したミドリガメのために『水槽をひと回り大きいものに交換してあげよう』と、2年女子の市ノ瀬レミが提案した。レミはミドリガメ贔屓なのだ。
サクトも、レミに手順を教わりながら、作業を手伝うことになった。
そして、これまで使用していた水槽を洗って、天日干ししようとしたときだった。
サクトの目の前、窓の向こう側を、女子ラクロス部員たちが通りがかった。
「あっ、レミー!」
その中の1人が、明るく笑いかけて手を振った。それが佐々井リョウカだった。
レミの隣にいたサクトの瞳は、一瞬にして彼女に奪われた。
まるでサクトの時間だけが止まってしまったようだった。
このとき、私まで息をのんでしまった。
リョウカは仲間とともに、すぐに通り過ぎていった。
それでもサクトは、レミに話しかけられるまでずっと、リョウカの揺れるポニーテールを目で追い続けていた。