「お母さーん、浴衣の着付けしてー!」

「はーい、もう少しだけ待ってよ」

「待てないよ。柊くんとの集合時間に遅刻しちゃうよ!」

「へぇー、柊くんっていうのね」

ニヤニヤ微笑みを浮かべながら、私の元へと近寄ってくる母親。こっちとしては早くしてほしいのに、母はその様子すら楽しんでいるようにも見える。楽しんでいるに違いないが。

「あっ!まだ動かないでよ。動かれたら着付けしにくいわ」

目の前に置かれている等身大の鏡に映る私が徐々に色づいていく。パッとしないような色合いだった私が、ほんの少し手間をかけるだけで別人みたく派手な色に包まれる。

赤、黄色、オレンジ。どれも普段着では選ぶこのない色ばかり。完成に近づくほど見違えてしまうかのような出来栄え。本当にこれが、私なのだろうかと思いつつ鏡と向き合う。

「よし、完成!かわいいじゃない。さすがは私の娘ね」

「お母さんは本当に一言余計だよね」

「いいじゃないの、今くらいは許してよ」

「何をゆる・・・」

鏡に映る私の今日だけの晴れ姿。影から顔をチラッと覗かせている母。しかし、その表情は私とは真反対だった。

哀愁漂う、今にも泣き出しそうな顔。彼女の何かがあと一つ崩れ去ってしまえば、それが決定打にもなりかねない。私が『普通の子』だったら、母はこんな表情をしなかっただろう。

でも、私の心臓には悪魔が住み着いている。だからこそ、母の気持ちが痛いほどわかってしまう。きっと母は、私が浴衣を着るのがこれで最後なんだと悟っている。そうでなければ、この場面で今にも泣きそうな顔をすることはない。

母の右目から綺麗な雫がこぼれ落ちる。頬を伝うようにゆっくりと下へ下へと、そして消えた。

気付くと一枚の鏡越しに目が合う親子。母の目が大きく見開かれると同時に、泣き顔から一瞬にしていつもの顔へと戻る。あたかも何もなかったかのように自然な振る舞いで。

「お母さん・・・」

「どうしたの?そんな顔して、せっかくの晴れ姿よ。たっくさん楽しんでおいで。ほら、彼が待ってるよ!」

さっき私が目にした母の姿が幻なのではないかと思うほど、母の顔には一切の悲しみなど存在していない。確かに母は泣いていたのだが...私の気のせい?

玄関で履き慣れない下駄に足を通す。違和感しか感じられないが、今日はこれを履かないとキマらない気がする。

「お母さん行ってくるよ・・・」

「はい、行ってらっしゃい!帰りも気をつけなさいよ」

私にできることは何もない。せめて母にこれだけは伝えたい。私の母である前に一人の人間なのだから。

私の目からも涙が溢れてくる。せっかく母が私の顔も彩ってくれたのに、これでは台無しになってしまうかもしれない。それでも私は泣くのを堪えることができなかった。

私が泣いている様子に驚くこともなく、受け止めるかのように見つめてくる母。

「お母さん。泣きたい時は泣いてもいいんだからね・・・我慢しないでね」

「何を言うのかと思えば・・・全く余計なお世話よ。お母さんを見くびらないで。でも、ありがと火花・・・」

このままでは私の足が花火会場に進まなくなってしまうので、ゆっくりと玄関の扉を閉めていく。徐々に閉まっていく扉の隙間から見える母の顔。

ずっと笑顔だった...閉まるまでずっと。

"ガチャン"

完全に玄関の扉が閉まる。分厚い一枚の壁越しに、誰かの小さな嗚咽が聞こえてくる。紛れも無い大好きな人のものだった。

家を出て、数分の所にコンビニが見えたので躊躇うことなく一目散にトイレへ駆け込む。トイレの鏡に映る自分の姿は、当然母に化粧をしてもらった顔とは幾分か違っていた。

それもそのはず、目は真っ赤に充血しアイライナーが落ちて目の下あたりが黒くなってしまっている。彼にこの顔を見られなくてよかったという安心感と、まだ冷めきっていない胸の感情が心の内で葛藤中。

ぐちゃぐちゃのままで彼に会うわけにはいかないので、ハンカチで目元を拭い巾着袋に入れてあったメイク道具で自分なりにスケッチしていく。

「ん、お母さんみたいにはいかないな・・・」

鏡に映る自分は先ほどの出来栄えよりも格段に落ちてしまっているが、もう仕方がないので道具を巾着袋にしまっていく。ガシャガシャと個室に鳴り響く雑音。

消臭剤のようなトイレらしい匂いが鼻を刺激する。

普段化粧しない私にとっては少しハードルが高かったようだ。

手をささっと洗い流し、ハンカチを裏返し手を拭く。ハンカチの表面は黒く汚れてしまったので、また新しいのを買い替えないといけない。

トイレから出ると入店した時は気が付かなかったが、花火大会の会場から近いコンビニということもあってお客さんはほとんどが浴衣や甚兵衛をきた人たちばかり。

年齢層はもちろんバラバラ、カップルでいる人たちもいれば、同姓の友達、異性の4人組の友達もいる。みんな、今日のために身なりを整えてきたのか、夏らしい服装、夏らしいさっぱりした髪型が多い印象。

一年に一度の楽しみなのだから、自分を他人によく見せようと彩るのは当たり前なのかもしれない。来年はまた違った形で色がつく。そんな未来の楽しみもみんなにはある。

せっかく明るかった気持ちが沈んでいってしまう。私にとってはこれが最後の花火大会になるのだから...

楽しそうに賑やかになっている店内に、一人だけ沈んでいる私。同じ世界のはずなのに、別の世界に囚われているみたい。

"トントン"柔らかな指先が私の肩にそっと触れる。

「迎えにきたよ」

振り返ると甚兵衛に身を纏った、柊冬夜の姿。顔が別次元な上に普段は見ない格好をされると破壊力が凄まじい。私ですら、こんなことを思ってしまうのだ。もちろん店内は...

『何あの人、カッコ良すぎでしょ!』

『おい!他の男に目移りするな・・・やばっ』

『なんかのモデルさんかな?』

『声かけてこようかな』

私の耳にも届いてくるくらいの声量で話している人たち。私が聞こえているのだから、彼にも聞こえているはずなのにまるで聞こえていないかのような表情のままの彼。

「ど、どうしてここだってわかったの?」

「そんなの簡単だよ。こんなにかわいい人見逃すわけないじゃん。今日のためにかわいくなってくれたんでしょ?めっちゃ嬉しい。ありがと!」

私が...かわいい?何かの聞き間違いかと思ったが、彼は確実に二回も『かわいい』と言った。

「そんなことないよ・・・私よりかわいい人なんてたくさんいるよ」

「僕には君が一番かわいく見えるんだけど・・・ダメかな?」

ずるい...そんなことを言われたらダメとは言えないじゃないか。彼が嘘をついているようには全く見えない。本心から言っているのが、目からしっかりと伝わってくる。

「わ、私も柊くんが一番かっこいいと・・・思います」

慣れない言葉を使ったせいで、緊張のあまり敬語になってしまった。彼からしたら、『かっこいい』なんて腐るほど言われたいるはずなので、私みたいに動揺するわけが...

「お、おう。あ、ありがとうな」

明らかに普段とは異なった口調の彼。もしかしたら、彼も緊張しているのかもと思ってしまう。

彼の登場で彼が店内にいる前よりさらに、騒がしくなってしまった。どこを見渡しても彼の周りには近づきはしないものの誰かしらが、張り付いている状態。

言ってしまえば、かなり異様な光景。芸能人がプライベートを見つかってしまい、人々に囲まれているかのような。

「そろそろ出たほうがいいかもね」

苦笑いする君。"全くこれは君のせいでできた人集りなんだからね"と心の中でいちゃもんをつけた。嬉しさを胸に残しつつ。

何も買わずに店を後にするのは、失礼かと思い念の為500mlの水を二本だけ購入した。お茶と迷ったが、私的に水の方が好きなので水を選んだところ、彼もそれに合わせてくれた。

ペットボトルのキャップを捻り、下唇に乗せて水を体へ流し込んでいく。まだ購入したばかりなので、キンキンに冷えていて夏の蒸し暑い空気感には最適の飲み物。

じんわりとする熱気が体を包む中、私の体には冷たい液体が流れ込んでいくのが、なんとも気持ちがいい。彼も同じことを思っているのか、顔が幸福に満ちている。

少しだけ量の減った水を片手に二人で並んで、花火大会の会場へと足を進める。道中、私たちと似たような格好をしたカップルたちが同じ方向へと向かっていく。

どのカップルも本当に幸せそうな表情を浮かべている。私の隣を歩いている彼の表情も学校で見るような表情とはまた一味違った、子供らしさを含んだ無邪気な顔をしている。

相変わらず、彼のことをチラチラと見る人は一定多数存在するけれど、彼は全く気にしていない。むしろ、さっきから彼の視線が私にずっと向いている気がする。

「人多くなってきたね。無理してない?」

「うん。大丈夫だよ」

「あ、大丈夫って言った。本当に?」

「今の大丈夫は本当のやつ!でも、少しだけ歩きにくいかもしれない・・・」

「そっか・・・わかった」

彼が右腕の手を腰の位置で固定し、体と腕の間に空間が作られた。もしかしたら、彼もこの人混みの中にいることで疲れてしまったのかもしれない。

「ちょっと休もうか?」

「疲れちゃった?」

「え、私じゃなくて柊くんが」

「僕は疲れてないよ?」

「だって、腰に手を当ててるから疲れたのかと思っちゃった」

「・・・そういうことね。夏目さんが歩きにくいって言うから、その・・・もし良かったら、僕と腕組んでほしいなと思って。ごめん伝わらなかったよね。自分で言うの恥ずかしくて・・・」

「あ、ごめん!気付かなかった。じゃあ、お言葉に甘えて・・・」

彼の右腕に絡ませるように、私の左腕をそっと彼の腕と交える。ギュッと一瞬にして私たちの間が埋まっていく。彼との距離はほぼゼロ距離に等しい。

側から見たら、初々しいカップルというよりもある程度付き合いの長いカップルに見えるかもしれない。だって、これは手を繋ぐよりも相手との距離が近いから。

「あ、あのさ。今更だけど手を繋ぐ方がよかった?」

普通なら迷子にならないように手を繋ぐのが、恋愛の王道のような気もするが、私はこれはこれで安心できるので満足。

「ううん、こっちがいい!」

「よかった。手を繋ごうか迷ったけど、僕緊張して手汗半端ないから、手を繋いだら夏目さんの手を汚してしまうと思って・・・」

「別によかったのに、緊張でそんなこと気がつくはずないから。今も緊張はしてるけどね」

笑い合う二人の男女。周りが騒がしいこともあって、私たちの笑い声は祭りの喧騒の中の一つとして消え去っていく。

花火大会の予定は、19時からの打ち上げとなっている。携帯を取り出し、画面を軽くタッチする。光る液晶に映る18時27分の文字。

まだ、打ち上げまで30分はあるが、その間に花火がしっかり眺められるベストポジションを見つけないといけない。悠長に歩いている場合ではないのは確か。

「どこで花火見よっか?」

「僕ね、いい場所知ってるよ。結構穴場なんだけど、少し歩くんだよね。多分移動中に花火上がっちゃうけど、それでもいいなら案内するよ」

そんなの答えはひとつに決まっている。

「連れてって」

私たちとすれ違って歩いていく多くの人たち。その波に逆らうかのように、私たちは別の場所へと歩みを進める。徐々に人の数が減っていくのが見てとれる。

「ごめん。そろそろ腕離した方いいよね」

すーっと私の腕から彼の腕が抜けていく。さっきまでそこにあったはずの腕が、一瞬にして私の感覚外へと行ってしまった。

「あっ」

「どうかした?」

「あ、ううん。なんでもない」

私の左腕は居場所を失った小鳥のように、ただ何もない空間に取り残される。"なんだろうか。この喪失感のような寂しい気持ちは"今まで感じたことのない気持ちに襲われる。

私はもう少し彼と腕を組んでいたかったんだと、今更ながらに気付かされる。もう遅いのに...

「あと少しだから、頑張って!」

「うん」

なめらかだった道が途中から険しくなり始めた。歩くだけで呼吸が少しずつ乱れてくる。顔を前へ向けるとさらに斜面が傾いているのがわかる。

先が見えない斜面に圧倒される私。その横で私と歩幅を合わせて歩いてくれる彼。彼からしたら遅いはずなのに、嫌な顔を全くせずに当たり前と言わんばかりの表情。

彼にとっては当たり前かもしれないが、意外と気づかないで先に行ってしまう男性は世の中には腐るほどいる。こういった些細な気配りが出来るあたりがやはり彼のモテるポイントなんだろうな。

"ドンッ! ドンッ! ドンッ!"

どうやら花火大会が開始してしまった模様。携帯で時間を確かめると、時刻はちょうど19時となっている。

『わぁ、綺麗!』

『すげぇーな』

様々な幸せを纏った声が私たちの周りから溢れ出す。鳴り止まない歓声と夜の空に響き渡る花火の心地いい音。

「ごめん、間に合わなかったね。私が歩くの遅かったから・・・」

「そんなことないよ。こうやって一緒に見られているだけ僕は嬉しいよ。あの丘を登れば絶景が待ってるよ」

「頑張る・・・」

「ほら、おいで」

彼の大きな手が私の前に差し出される。さっきは繋ぐことがなかったその手。彼の後ろでは花火が空に咲き誇り、いい感じに彼と背景がマッチしていて美しささえ感じられる。

そっと手を彼の手に乗せると、グイッと強い力で引き寄せられる。彼も思ったより強く引っ張ってしまったようで、勢い余って彼の胸に顔を突っ込んでしまう。

柔軟剤の甘い香りが彼の甚兵衛から香る。彼のもう片方の手が私を抑えるように腰の辺りに手が回る。彼との距離の近さに思わず体が仰け反ってしまう。

「ほら夏目さん、見てみなよ」

手すりの向こう側には花火会場を一望できる景色。点々と動く人たちの姿も微かに見える。

"ドンッ! ドンッ! ドンッ!"

鳴り止むことを知らない花火は絶えることなく、今もこの夜空を明るく照らし続ける。赤、黄色、青、緑と様々な色で彩られていく真っ暗な空という名のキャンバス。

周りにも若干人はちらほらいるが、みんなの目線はどれも上を指している。夜空に咲く大輪を眺めているのだ。

人々の顔は様々な色を反射して鮮やかに彩られる。隣の彼を見ると、彼も赤く染まっている。その赤色が花火の光によるものなのか、それともそれ以外のものなのかは私にはわからない。

少しだけ私と一緒にいることに対して照れていてほしいとさえ思ってしまう。

「綺麗だね・・・花火」

「そうだね。僕さ、本当は花火嫌いだったんだ」

「え、どうして?」

どうして彼は花火が嫌いなのに、今日私を花火大会に連れてきたのだろうか?

「理由は2つあるんだけどね。1つは小さい頃に両親と花火大会行ったんだけど、知らないうちに僕迷子になっちゃってさ。それが、怖かったんだ。知らない人で溢れかえっている中、みんなが楽しそうに笑っている中、僕だけが泣くことしかできない無力感に襲われてね・・・」

「だから私が迷子にならないように腕を組んでくれたりしたの?」

「うん。それもあるけど・・・カップルらしいことをしてみたいなって思ったからでもあるんだ。ごめんね、下心で」

それって...もしかして彼は私のことを...いやだめだ。そう簡単に判断してはいけない。

「そ、それでもう1つの理由ってのは?」

話を誤魔化すことに成功した私。話の脈絡からして不自然にも思われてしまうかもしれないが、これ以上あの話に踏み込んでしまったらいけない気がした。

「あぁ、もう1つはただ単に春に咲く桜と同じように花火の儚さが好きじゃないんだ。人々に感動を与えるけれど、それは少しの間だけ。まるで、人間の記憶みたいで嫌なんだ」

「人間の記憶?」

「そう。死んだ人間が徐々に人々の記憶から薄れていくように消え去っていってしまうのがね・・・」

彼の瞳は寂しく潤んでいるようにも見えた。もしかしたら、彼にもそんな大事な人がなくなってしまった経験があるのかもしれない。それに、私だって無関係とは言い切れない。

私もあと一年もしないうちにこの世から消えてしまう。両親はいつまでも私のことを覚えていてくれるだろうが、今隣にいる君は一体どのくらいの間覚え続けてくれるの?

『消える』この言葉は『死』より怖い言葉だ。記憶から忘れられるということは、そこに存在してすらいなかったと認識されてしまうんだ。それが何より残酷か、この時の私は何にもこのことについて理解できていなかった。

「柊くん。もし、私に何があっても忘れないでね・・・」

「もちろん忘れないさ。絶対・・・絶対に」

周りが花火を『綺麗』と楽しんでいる中、私たちの間には言葉にできない哀愁が漂っていた。

「あのさ、その・・・もしよかったらなんだけれど、僕と付き合ってくれないかな」

「えっ」

突然の告白に私の脳がついていかない。え...私と付き合ってほしい?なんで、どうして。

「残りの君の人生を僕にください!」

「残りの人生・・・」

彼は私が残り一年の命ということを知っているのだろうか。両親と先生しか知らないはずなのに。

「いつまで僕らが生きられるかはわからないけれど、生きている間は君の側にいたいんだ。だから、恋人になってください」

そういうことか。彼は私の余命を知っていたわけではなく...でも、そのセリフよく考えると、告白というよりもプロポーズに近い気もする。『人生をください』なんてまるで、結婚してくれとも聞こえてくる。

「えっと・・・その・・・」

「ご、ごめん!無理にとは言わないから、嫌なら全然断ってくれていいから」

「ち、違くて。私でいいの?」

不安なんだ...私と付き合って彼が私の死に対してどんな気持ちを抱くのかが。私は必ず一年もしないうちに死ぬ。これは変えることができない私の光のない未来。

「君がいいんだ。あの僕が転校してきた日、君に惹かれたんだ。前も話したけれど、興味なさそうにしていた君が今では僕の隣で笑うようになってくれた。それが、僕は嬉しいんだ。この笑顔を守っていきたいと思わせてくれたんだ」

「私笑ってるの・・・?」

「笑っているよ。それに僕が初めて君をみた日から明るくなった。心の中にあった靄が少しずつ晴れていっているような・・・」

言われてみれば、私は彼と出会ってから両親とも余命宣告される前みたく普通に話せるようになっていた。彼のおかげで私は変わりつつあるのか。

「そっか。私変われているんだ。ありがとう柊くん」

「僕は何もしてないよ」

照れ臭そうにはにかむ顔がかわいい。私はその気持ちに気づかないようにしていただけで、もう君に心を奪われていたのかもしれない。

好きになってはいけないと思っていたが、どうもこの気持ちを無下にすることはできないらしい。

なら、答えはひとつだろう。

「私でよければ、あなたの隣に居させてください」

「本当に!よかった〜、初めての告白で緊張したよ」

「え、初めてなの?」

「自分から告白したのは初めて。告白は割とされてきたけど・・・」

「えー、どのくらい?」

「内緒!」

笑い合う二人の声をかき消すくらい大きな花火が打ち上がる。手を繋いだままの二人の影が花火の光によって後ろに建っている壁に映し出される。

「無事、恋人になったからさ、互いのことこれからは名前で呼ばない?」

「わかった。火花・・・ちょっと恥ずかしいな」

「そのうち慣れるよ。これからよろしくね、冬夜」

「こちらこそ、よろしくね」

いつか私も彼に本当のことを伝えなければならないのだと思うと、心が締め付けられるほど苦しい。でも、今だけはそんなことを考えずにこの幸せな気分を味合わせてほしい。

この日が私の人生で最も幸せな日だったと後から思い返せるように。