「そういうこと。話が早いじゃん」


 答えつつ、殿下はケラケラと声を上げて笑った。
 言葉遣いといい、普段とは異なる風貌と言い、本当にエルヴィス殿下なのか疑わしい。だけど、実際にこの部屋を駆け回っているのは彼の側近たちだし。本人がわざわざ条件云々言うんだから間違いないのだろう。


(……好都合と言うべきか、不都合と言うべきか)


 正直、王族なんて一生関わりたくないって今でも強く思っている。でも、関わると決まってしまったからには、このぐらい分かりやすい人間の方がやりやすい。しっかりと距離を保って、一年間を適当にやり過ごせば済みそうだ。


「名前は?」


 殿下がそう言って楽し気に目を細める。目の前に、殿下の手が差し出されていた。


「ザラ・ポートマンです。口の堅さはお約束しますが、あんまり仕事できませんよ、わたし」

「別にいいよ。容赦なく扱き使うからさ」


 ため息を吐きつつ手を握り返すと、殿下は小さく笑った。