(だけどわたしは違う)


 別に良い所に就職しなくていい。普通に食べられて、人並に買い物ができればそれで十分。

 権力者には近づかない。争いごとに巻き込まれない。
 めちゃくちゃ平凡で平和な二度目の人生を生きることが、わたしの最大の目標だったのに。


(もっともっと、馬鹿なフリをすれば良かった)



 けれど、悲しいかな。どれだけ嘆いた所で、時間は巻き戻ってくれない。

 生徒会室の前に到着したわたしは、盛大なため息を吐く。
 先生のご指名だし、今更逃げられるはずもない。変に目を付けられても、今後の人生に影響が出てしまう。


(殿下とは出来る限り話さない。目立たず、控え過ぎず、堅実に――――)


 心の中で唱えつつ、大きく深呼吸をしてから扉を開く。


「失礼しま――――」

「遅いっ! 書類一つ準備するのに、どうしてそんなに時間が掛かるんだ! 事前に引継ぎは受けてるだろ?」

「申し訳ございません、殿下!」

(…………は?)


 何これ。思っていたのと全然違う。