「ダメだろう、ザラ? 盗み聞きなんてしちゃ」


 振り向けば、オースティンがいつもみたいに穏やかな笑みを浮かべていた。いつの間にか魔法が剥がされ、わたしの姿が露呈している。


(しまった! アジトに罠が張られてたんだ)


 もしも魔力を制限していなければ、このぐらいの魔法、簡単に跳ね返せていた。だけど、あとから後悔したってどうにもならない。時間は巻き戻らないし、今できる事を考えなければならない。


「盗み聞きだなんて、人聞きが悪いなぁ」


 そう口にしながら、わたしは不敵に笑ってみせる。
 オースティン達は傍から見れば、とても穏やかな顔をして笑っている。けれど、こういう善良な顔をした人間が恐ろしい事をしうるって、わたしは前世で身を以って知っていた。


(ううん、皆最初からこうだったわけじゃない)


 前世でわたしを利用して戦争を起こした官僚たちは、元はごく普通の真面目な男たちだった。
 だけど彼等は、皇帝がわたしに手を出したことで変わってしまった。皇弟を使って自分たちの野望を、それを果たすだけの力がある事を知ってしまったから。