「人肌が恋しいなら、殿下にはいくらでも分け与えてくれる御令嬢がいますよーー。少しぐらい羽目を外しても、『殿下も男だったんだなぁ』ぐらいの噂で済みますって。何もわたしに対してそういう気を起こさなくても――――」

「別に人肌が恋しいわけじゃない。おまえだって分かってるだろう?」


 腕に力を込めながら、殿下はそんなことを言う。


「……分かりませんよ、そんなこと。わたしには分からないんです」


 答えながら胸の辺りがジクジクと熱くなる。

 分からないなんて、本当は嘘。

 口調とか、態度とか、色々と裏の多い殿下だけど、根は誠実な人間だ。仕事ぶりは至って真面目だし、色々と無茶ぶりも多いけど、何だかんだで側近やわたしのことを労わってくれる。
 あれだけ女の子たちに言い寄られたら、一人や二人、お気に入りの子と遊んでいたって良いと思うのに、そうはしない。

 そんな殿下がわたしに何を求めているのか、分からない程馬鹿じゃない。

 だけど、わたしにだって譲れないものがある。