「聞いてた。でも、断る」


 殿下はわたしの顎を掴んで顔を固定すると、真っ直ぐわたしの瞳を覗き込んだ。今度こそ、殿下がどんな表情をしているのか見ざるを得ない。


「――――そんな顔、しないでください」


 思わずそう呟いてしまう。
 欲の見える瞳は嫌いだ。それが巻き起こし得る何かを、わたしは知っているから。わたしを破滅へと導くことを、知っているから。心が大きく揺れ動く。わたしは静かに目を伏せた。


「おまえが俺に言ったんだろう? 自分を偽るなって」


 殿下はわたしのことを抱き締めながら、そんなことを口にする。ギュッて心臓が軋む音がして、息が苦しい。


「それは……」


 確かにわたしは殿下に対して『自分を偽るな』とそう言った。だけどそれは、わたしに対して自分を偽るなってことじゃない。

 そもそもわたしは殿下の本性を知っているのだし、彼が自分を出すべき場所は、もっと他に存在する。